■『絶望名言』
『絶望名言』(飛鳥新社。本体価格1389円+税)が出版されました。
NHKラジオ深夜便のコーナーを書籍化したものです。
コーナーでお話されているのは頭木弘樹(かしらぎひろき)さん。
頭木さんは文学紹介者で、翻訳した本に『絶望名人カフカの人生論』(飛鳥新社/新潮文庫)、著書に『絶望読書』(飛鳥新社/新潮文庫)、『カフカはなぜ自殺しなかったのか』があります。
頭木さんは、なぜここまで絶望しているのか。
大学生の時に難病を発症し、13年間入院生活を送られたとのことです。
この絶望的な状況において、励ましよりも他人の絶望の言葉の方が心にしみるという体験をし、『絶望名人カフカの人生論』を翻訳されたのだそうです。
困難な状況にある方を報じたり、紹介するとき「でも、こんなに明るく前向きに生きていて素敵」と見せたがりがちです。
「こんな風に生きている人もいるんだから、あなたもきっと大丈夫」といわれても・・・。「がんばれねーよ、大丈夫じゃねーよ。ほっとけよ。」と思うのが本当のところです。
頭木さんは、ある朝急にベッドの中で動けなくなったそうで、リアルカフカの『変身』だったとこの本で書かれています。
『変身』というと「ある朝、目覚めたらベッドの中で虫になっていた」というあれです。若い頃は「なぜこれが名作なの? SFでもっとおもしろくすればいいのにー」と文学的素養のかけらもなく腹立たしささえ覚えていましたが、大人になるとなるほどそういうことなのかと少しだけわかります。
ということで、頭木さんの”絶望の親友”はカフカのようです。
カフカの絶望名言が紹介されています。
「将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」
倒れたまま。いいですね。
「立ち直れなーい」とか叫んでいても、2,3日後にはけろっとしている、そんなあなたには深い理解はできません。
『絶望名言』わかりたいのか、わかりたくないのか。
わかりたくないけど、どんなのかちょっと見るだけ見てみたい。
絶望している人はもちろん、これからの人も怖いものみたさで、お好みの絶望に出会えるかもしれません。
他に、ドフトエフスキー、ゲーテ、太宰治、芥川龍之介、シェークスピアの絶望名言が収められています。
ラジオ放送でのお相手はNHKアナウンサーの川野一宇(かわのかずいえ)さん.
書籍では対談形式で収められています。
川野さんも絶望体験をお持ちでありながら、頭木絶望とはまた違った絶望のようで、絶望もいろいろありそうというところも読みどころです。
番組ディレクターは絶望したいけどしきれない根田知世己さん。